例年より遅れながら、梅雨前線が北上してきた。「梅雨入りお見舞い申し上げます」と、新聞に広告が載っていた。さわやかな気分からは遠い。けれど、煙る雨の奥に、盛んな生命の営みを感じる季節でもある。

梅雨前线推移到北方了,比往年要晚些。报纸上刊登着广告:“入梅了,向您致以问候”。心情还远未到心清气爽的地步。然而,这个季节也令人感觉到在蒙蒙细雨深处活跃着的生命。

 湿気の中から生じるものには「嫌われ者」が多い。〈梅雨茸(つゆだけ)の(とが)あるごとく踏まれけり 田村コト〉。いまごろのキノコを、俳句では総じて梅雨茸と呼ぶ。生き物なら、ナメクジあたりが筆頭だろう。昭和の名人、落語家の五代目古今亭志ん生の半生記「なめくじ艦隊」を思い起こす。

生长于潮湿的生物当中有很多“讨厌鬼”。“梅雨蘑何罪,无情践踏?田村コト”。俳句中一般称现在的蘑菇为梅雨蘑。动物当中首当其冲的就是蛞蝓(kuòyú)灾害吧。想起昭和时代的名人、第五代落语家古今亭志生的半生记《蛞蝓舰队》。

 志ん生一家が5人で暮らす貧乏長屋には、大小のナメクジが艦隊よろしく押し寄せた。塩をまいても参らない。夜になるとピシッ、ピシッと鳴いて、大きいヤツがカミさんの足の裏に吸い付いたというから、すさまじい。毎朝、炭入れにいっぱい取って川にうっちゃっていたそうだ。

ぴしっ〈たたく音〉_ぴしっと頬をたたく slap sb across the face。

志生一家五口人生活的破旧大杂院里大大小小的蛞蝓排着队蜂拥而来,简直象舰队一般。撒盐也没用。一到晚上就比西比西地叫着,一些大家伙还吸附在他妈妈的脚掌上,真是太恐怖了。据说每天早晨都收拾一炭筐倒到河里。

 〈滑(なめ)らかに生き居ることを憎しとし蛞蝓(なめくじ)は女に塩まかれたる 斎藤史〉。呼び名の「ナメ」は滑らかという意味だが、「クジ」には定説がないと聞く。水回りに出没しては主婦の不興を買ったが、都会ではもう目にすることはまれだ。

“蛞蝓粘滑惹人厌,主妇向它撒盐面”。听说其名字中的「ナメ」是滑溜的意思,而「クジ」没有确定的说法。它出没在家中有水的地方(厨房、浴室、厕所),家庭主妇最讨厌它了,城市里现在很少见了。

 この時期には、鉢植えの下に潜んでいることが多い。夜になると艦隊を組んで出撃し、柔らかい芽を食べてしまう。植物の葉に銀色の「航跡」を見つけたら、園芸好きな人は要注意である。

这段时间,它经常躲藏在花盆下面。一到夜晚,就编队出击,侵食柔软的植物芽。如果发现植物的叶子上有银色的“爬行轨迹”,园艺爱好者就要小心了。

 どうにも敵が多いけれど、やさしい目を向ける人もいる。〈なめくぢも夕映えてをり葱(ねぎ)の先 飴山實〉。なべて生き物に命あり。雨も光も、へだてなく万物に降り注ぐ。

似乎有很多敌人,但也有人对它投以温柔的目光。“夕阳也照在蛞蝓身上,和葱尖上”。总体而言,生物都是有生命的。阳光和雨露一视同仁地恩泽着万物。

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