日语文学作品赏析《O君の新秋》
作者:芥川龍之介
来源:青空文库
2010-01-06 00:00
僕は膝 を抱 へながら、洋画家のO君と話してゐた。赤シヤツを着たO君は畳 の上に腹這 ひになり、のべつにバツトをふかしてゐた。その又O君の傍 らには妙にものものしい義足が一つ、白足袋 の足を仰向 かせてゐた。
「まだ残暑と云ふ感じだね。」
O君は返事をする前にちよつと眉 をひそめるやうにし、縁先 の紫苑 へ目をやつた。何本かの紫苑はいつの間 にか細 かい花を簇 らせたまま、そよりともせずに日を受けてゐた。
「おや、こいつはもう咲いてゐらあ。この………何 と云つたつけ、団扇 の画の中にゐる花の野郎 は。」
×
海の音の聞えない、空気の澄んだ日の暮だつた。僕はやはりO君と一しよに広い砂の道を散歩してゐた。すると向うからお嬢さんが一人 、生 け垣 に沿うて歩いて来た。白地の絣 に赤い帯をしめた、可也 背 の高いお嬢さんだつた。
「あ、あのお嬢さんは気の毒だなあ。長い脚を持て扱 つてゐる。」
実際その又お嬢さんの態度はO君の言葉にそつくりだつた。
×
O君は杖 を小脇 にしたまま、或大きい別荘の裏のコンクリイトの塀に立ち小便をしてゐた。そこへ近眼鏡 か何かかけた巡査 が一人 通りかかつた。巡査は勿論咎 めたかつたと見え、白扇 でO君を指さすやうにした。
「これです。これです。」
O君は多少吃 りながら、杖で二三度右の脚を打つた。右の脚は義足だつたから、かんかん云つたのに違ひなかつた。
「僕の家 はそこなんですが、……」
巡査はにやにや笑つたぎり、何も言はずに通りすぎてしまつた。
×
家々の屋根や松の梢 に西日の残つてゐる夕がただつた。僕はキヤンデイイ・ストアアの前に偶然O君と顔を合せた。O君は久しぶりに和服に着換へ、松葉杖をついて来たのだつた。
「けふは松葉杖だね。」
O君は白い歯を見せて笑つた。
「ああ、けふはオオル(櫂 )にしたよ。」
×
僕はO君の家 へ遊びに行 き、四畳半の電燈の下にいろいろのことを話し合つた。が、大抵 は神経とかテレパシイとかの話だつた。Uと云ふ僕の友だちの一人 はコツプに水を入れて枕もとへ置き、暫 くたつてそのコツプを見ると、いつか水が半分になつてゐる、或晩などはうとうとしてゐると、いきなり顔へ水がかかつた。しかし驚いて飛び起きて見ると、コツプだけは倒れずにちやんとしてゐる、――そんな話も出たものだつた。
それから僕等は散歩かたがた、町まで買ひものに出かけることにした。するとO君はいつもに似合 はず、肘掛 け窓の戸などをしめはじめた。のみならず僕にかう言つて笑つた。
「この窓に明 りがさしてゐるとね、どうもそとから帰つて来た時に誰か一人 ここに坐つて、湯でものんでゐさうな気がするからね。」
O君は勿論 この家に自炊生活 をしてゐるのである。
×
O君はけふも不相変 赤シヤツに黒いチヨツキを着たまま、午前十一時の裏庇 の下に七輪 の火を起してゐた。焚きつけは枯れ松葉や松蓋 だつた。僕は裏木戸 へ顔を出しながら、「どうだね? 飯 は炊 けるかね?」と言つた。が、O君はふり返ると、僕の問には答へずにあたりの松の木へ顋 をやつた。
「かうやつて飯を炊 いてゐるとね、松は皆焚きつけの木――だよ。」
×
パナマ帽をかぶつたO君は小高い砂丘に腰をおろし、せつせとブラツシユを動かしてゐた。柱だけの白いバンガロオが一軒、若い松の群立 つた中にひつそりと鎧戸 を下 してゐる。――それを写生してゐるのだつた。松は僕等の居まはりにも二三尺の高さに伸びたまま、さすがに秋らしい風の中に青い松かさを実のらせてゐた。
「松ぼつくりと云ふものはこんな松にもなるものなんだね。」
O君はブラツシユを動かしながら、僕の方へ向かずに返事をした。
「女の子が妊娠 したと云ふ感じだなあ。」
×
O君は本職の仕事の間 にせつせと発句 を作つてゐる。ちよつとO君を写生した次手 にそれ等の発句もつけ加へるとすれば――
「まだ残暑と云ふ感じだね。」
O君は返事をする前にちよつと
「おや、こいつはもう咲いてゐらあ。この………
×
海の音の聞えない、空気の澄んだ日の暮だつた。僕はやはりO君と一しよに広い砂の道を散歩してゐた。すると向うからお嬢さんが
「あ、あのお嬢さんは気の毒だなあ。長い脚を持て
実際その又お嬢さんの態度はO君の言葉にそつくりだつた。
×
O君は
「これです。これです。」
O君は多少
「僕の
巡査はにやにや笑つたぎり、何も言はずに通りすぎてしまつた。
×
家々の屋根や松の
「けふは松葉杖だね。」
O君は白い歯を見せて笑つた。
「ああ、けふはオオル(
×
僕はO君の
それから僕等は散歩かたがた、町まで買ひものに出かけることにした。するとO君はいつもに
「この窓に
O君は
×
O君はけふも
「かうやつて飯を
×
パナマ帽をかぶつたO君は小高い砂丘に腰をおろし、せつせとブラツシユを動かしてゐた。柱だけの白いバンガロオが一軒、若い松の
「松ぼつくりと云ふものはこんな松にもなるものなんだね。」
O君はブラツシユを動かしながら、僕の方へ向かずに返事をした。
「女の子が
×
O君は本職の仕事の
らん竹 に鋏 入れたる曇り哉
夜具綿 は糸瓜 の棚に干 しもせよ
わくら葉は蝶 となりけり糸すすき
うすら日を糸瓜 かはむけ井戸端に
ひときはにあをきは草の松林
大つぶもまじへて栗のはしり哉
鳳仙花 種 をわりてぞもずのこゑ
わくら葉は
うすら日を
ひときはにあをきは草の松林
大つぶもまじへて栗のはしり
(十五・十・十一鵠沼 )
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