『決別する二人』

 

「11歳の時、俺たちは出会った。
 俺は雪穂を守るため、父親を殺した。
 その俺を庇うため、雪穂は母親を殺した。
 俺たちは、その罪を隠すため、他人でいることを約束し、
 別れた。
 だけど、7年後、俺たちは再会し、
 いつの日かもう一度、二人で太陽の下を歩くことを約束した。
 それは、罪に罪を重ねて、生きていく方法しかなかったんだ。
 崩れ始める、二人の絆・・・。」

1999年冬
亮司(山田孝之)は雪穂(綾瀬はるか)とベッドを共にしながら、
窓の外の雨を見つめていた。父親が雪穂にしたことを思い出していたのだ。
「昔のこと、思い出したんだ。」雪穂がそれに気付く。
「うん・・・。」
「そっか。」
雪穂はそう言うと浴室にこもり、彼女もまた昔の辛い出来事を思い起こす。

ベッドに一人になった亮司は、テーブルに積み上げられた大金を見つめながら
考える。
「雪穂がもう二度と、手を汚さなくてもすむように」と約束したこと。
そして雪穂と篠塚(柏原崇)の2ショット。
嫉妬する自分。

「何やってんだろ・・・俺・・・。」

「あいつといる方が幸せになれるのは、誰の目にも明らかだ。」

篠塚と相合傘で歩く江利子(大塚ちひろ)。
「雪穂ならカレシはいませんよ。」
「ん?」
「へっ?これって、雪穂に取り次げって話ですよね。」
「唐沢好きな人がいるって言ってたよ。」穏やかに微笑む篠塚。
「そうなんですか?」
「あれ?友達じゃなかったっけー。」
「私はそのつもりです!」
江利子は雨に濡れた妊婦に気付く。

亮司は金をカバンに詰めたあと、雪穂が持っていた篠塚の本
『GONE WITH THE WIND』を見つめる。
シャワーを浴びた雪穂は部屋に戻り、亮司の見ているものに気付く。
「捨てちゃって、それ。 
 会わなきゃ忘れられると思うし、私、どうかしてた。」と雪穂。
「いいよ忘れなくて。」
「え・・・」
「ごめんな、こんなことさせて。」
「ちょっと待って。」
「雪穂が幸せじゃないと、俺が死んだ意味ないんだよ。
 まあ・・・がんばって。」
そう言い亮司は雪穂を部屋に残し、ホテルの部屋を出ていった。

名古屋の警察に連絡した笹垣潤三(武田鉄矢)は、キャッシュカードを使い
金を引き出したのは、カードについていた指紋、着ていた服装などから
西口奈美江(奥貫薫)本人で間違いないと告げられる。

「雪穂の為というのなら、身を引く以外に道はなかった。」

「榎本さんから、お話伺いまして。」
亮司は自分の部屋の前に立つ男にそう声をかけられる。

「俺はもう、完全に日の当たらない世界にいたんだから・・・。」

笹垣はお経の本に挟まれた一枚の古い写真を取り出し、優しい目で見つめる。
小学生ぐらいの少女の写真。裏には1984年12月15日と書かれている。
「命日か・・・。」

雪穂が図書館で『GONE WITH THE WIND』を読んでいると、
「よく読めるねー。そんなの!」
谷口真文(余 貴美子)が感心しながら覗き込んできた。
雪穂は谷口の左手薬指に指輪があることに気付き聞いてみる。
「あの、結婚してから、他に好きな人が出来たことってあります?
 友達がどうも、彼の他に好きな人が出来たようで・・・。」
「友達・・・。」
「だけど、彼のことを嫌いになったわけじゃないし。」
「私もさ、隣んちの息子にドキドキ!」
「え!?」
「当たり前じゃない?10年も20年も同じ気持ちでいられるほうが珍しいよ。
 ただね・・・。」
谷口はスタッフに呼ばれ戻っていく。
「ただ、なに?」雪穂が呟いた。


亮司は開発者が突然亡くなってしまったゲームの設計図の続きを作らないかと
榎本(的場浩司)から依頼を受ける。
あの榎本とつながっていたことに驚く園村友彦(小出恵介)。
「お前なんで榎本とつるんでんだよ!?」
「詳しく説明しようか。」
「・・・いや、想像しておく。」
「ふーん。賢くなったな、お前。」
彼らの過ごす部屋には、奈美江が持ってきた観葉植物が光を浴びていた。

「なあ、雪穂・・・
 知ってる?
 地球からは月の裏側は見えないんだ。
 輝くその川の裏側がどうなっているのか、
 俺たちは見ることは出来ない。
 ちょっと違うか。
 写真でなら見れるんだから。
 俺は、素人しなかっただけなのかもしれないな。
 月の裏側、隠されていたあなたの姿を。」

雪穂は篠塚に会えることを期待して、彼が本を読んでいた喫茶店で
待っていた。
彼の会社の電話番号を調べようとしたところへ、篠塚がやってくる。
「この間、悪かったな。
 ついつい、勝負しているような気になっちゃってさ。」
「私もです。
 篠塚さんは、今日はお仕事の途中ですか?」
「まぁ・・・そうなんだけど。」
そこへ江利子がやって来た。篠塚と待ち合わせしていたのだ。
「え・・・もしかして。」
「唐沢に、言ってなかったの?」篠塚が江利子に聞く。
「言おうと思ったんだって。でも、部長のことがあるし、
 雪穂もやり辛いだろうな・・・って。」
「ありがと!気遣ってもらっちゃって。」笑顔を見せる雪穂。
「でも、雪穂だって言わなかったくせに。
 好きな人いるんでしょ?」
「嘘だって。あんまり篠塚さんが失礼なこと言うから。」
「え。嘘なの?」
「私に負けたってことですよ。」雪穂が微笑む。

二人仲良く並んで帰る姿を、雪穂は嫉妬の眼差しで見つめていた・・・。

友彦は松浦 勇(渡部篤郎)に、亮司が無理やり仕事に没頭しているようだと
心配そうに相談する。
「仕事って?相変わらずカードやってんの?」
「いや。ゲーム作ってんですよ。榎本からの仕事みたいで。」
「なんだよそれ!俺通してないってどういうことだよ!」
松浦が友彦に掴みかかる。

家で花を生けていても、押さえられない嫉妬心・・・。
そこへ、 礼子(八千草 薫)が帰ってきた。
施設で花を教えてきた礼子は、そこの子供に手を怪我をさせられていた。
「他に、当たるところなかったんやろ。
 あんたもたまには、私に当たったってかまへんのよ。」
不満などない、と言う雪穂に、
「ほんまかいな。私なんて不満だらけや。
 白髪が増えたな、とか、
 今日は何でこんなに寒いんやろ、とか。
 チョーむかつく。」と礼子。
「どこでそんな言葉覚えてきたのよ。」
「うっせーんだよ、ババァ。ちょームカツク!」
「ご飯温めてくるね。」
礼子はだいどころに立つ雪穂の背中を見つめ・・・。

松浦が亮司の部屋の怒鳴り込んできた。
自分を通さずに仕事をすることに怒りまくる松浦。
「あとで言うつもりだったんだ。」仕事を続けながら亮司が返事する。
「電話一本で済む話だろうが!」
「松浦さんより俺のこと信用しているみたいだよ、榎本。」
「・・・脅しか、それ。
 俺とお前が、イーブンとでも言いたいわけ?
 ふーーーん。あ、そう。
 あとで後悔すんなよ、お前。」
『風と共に去りぬ』を見つめながらそう言い捨て、松浦は出ていった。

「応援するしかないよな・・・。」
親友との2ショット写真を見つめ、雪穂はそう呟いた。

笹垣が礼子を訪ねていく。
「今日は、ちーと、別の話で・・・。」
笹垣はそう言い
「娘さんですか?」
「私昔、ある男を、殺人犯で逮捕したことがありまして。
 その男の子供ですわ。
 昨日が、命日だったものですから。」
「亡くならはったんですか?」
「・・・自殺です。
 親の罪、苦にして。
 それで、雪穂さんのことを思い出したんですわ。」
「なんで又・・・あの子のことを。」
「あの子、よう似とったんですわ。雪穂さんに。
 強い子で、いじめなんかには負けへん。
 せやけどある日突然、自殺してしもうた。
 抱え込んどったん、耐え切れんようになってしまったんですなぁ・・・。
 まあ、私が、殺したようなもんですわ。」
そう言いハンカチで顔を覆う笹垣。
「せやから、雪穂さんには、幸せに、なってほしいんですわ。
 おせっかいは、承知の上なんですが、
 心の傷の為にも・・・」
そう言い笹垣は『メンタルケアカウンセリング』のパンフレットを差し出す。


「それで、催眠療法を薦めたんですか?」
笹垣の部下・古賀(田中幸太朗)が尋ねる。
「まあ、受けへんやろうけどな。
 親切面でどうですかって又話聞きにもいけるし、
 何か出てきたらめっけもんや。」と笹垣。
「ほんとに傷ついてるのかと思いましたよ、その子の事。」
「あいつら、取り逃がしてしもうたら、それこそこの子、犬死にやんけ。」


笹垣は同僚たちのキャッシュカードの偽造の話に
「カードが二枚だったら」と興味を示す。

ソシアルダンス部の練習を終え帰ろうとする雪穂は、部長に部費の管理を
押し付けられる江利子に気付く。
「言っとくけど!遊ばれて捨てられるのが関の山だよ。」
そう言い立ち去る部長。
雪穂はため息をつく江利子から書類を受け取り、
「約束あるんでしょ。私やっておくから、行きなよ。」と微笑んだ。

大都銀行の偽装カード被害を伝えるニュースが新聞に掲載される。
友彦は慌てるが亮司は
「ここまではたどり着かねーよ。」と動じない。
「見つかったらどうすんだよ!」
「逃げるしかねーだろ。お前アホか。」
友彦の不安はいっそう募る。
「お前のさ、信じてるものって何?
 奈美江さんが言ってたんだよ。
 お前には、信じられる希望みたいなものがあって、
 だから強いんじゃないかって。」

「もう一回、太陽の下で、亮君と歩くんだよ。」
窓の外の光を見つめながら、雪穂の言葉を思い起こす亮司。
「なればいいな。すごく・・・。」
友彦は亮司の顔を心配そうに見つめていた。

「いいな・・・江利子・・・。」
ノートを付け終わったあと、雪穂は篠塚が書いた壁の落書きを見つめて
そう呟いた。
その時、雪穂の携帯が鳴る。

篠塚、江利子に呼び出された雪穂。
「悪いな、唐沢。倉橋部長のフォローまで。」
「いえ。篠塚さんの為じゃないですから。江利子の為ですから。」
「ホント仲いいんだな。全然似てないのにさ。」
「二人は似てる!
 すぐ人のことをからかうところとか、人の揚げ足とるところとか。」
江利子がそう言う。
「それ誉めてんの?」雪穂が笑う。
「誉めてるよ、すっごい!
 私なんて全然そういうことできないもん。
 思ったまんましか言えないし。
 全部顔に出ちゃうし。」
「それが江利子のいいとこじゃない。」と雪穂。
「贅沢だよな、江利子は。
 それがどれだけ幸せなことか、わかてないんだよ。
 俺はね、窮屈な子供だったの。 
 回りに気遣って、人の顔色伺って。
 子供っぽいことするなーって、子供なのにさ。
 あ、もしかして、唐沢もそうだった?」
雪穂を見つめる江利子。かつて苛められていた雪穂を思い浮かべ・・・。
「別に私はそんな、」否定する雪穂。
「篠塚さん、空いた!」雪穂の言葉を遮り、グラスを差し出す江利子。
江利子に微笑まれ、雪穂は微笑みを返したものの、スカートをぎゅっと
握り締めた。

多分江利子は、話の流れを変えようとしてくれたのでしょう。
でも雪穂はそれも疎ましかったようで・・・。

帰り道。酔ってベンチで眠る江利子。
「遊びじゃないんですよね、江利子のこと。
 部長がそんなこと言ってたから。」
「雨の日にね、江利子に半分、かさ貸したんだよ。
 そしたらいきなりさ、雨宿りしている妊婦さんに代わられて、
 なんか、ターっと走っていっちゃって。
 それがもう、本当に自然でさ。
 そういう真っ直ぐさって、お金では買えないだろ?
 答えになってない?」
「いいえ。いろいろご馳走様でした。」
雪穂は笑顔でそう言い篠塚に背を向けた。

タクシーに乗った二人に手を振り見送る雪穂。
その表情はだんだんとこわばり・・・。