「ヨコタテ」といえば、翻訳を少々揶揄(やゆ)した言葉だ。横文字を縦に置き換えるだけではないか——。だが中村吉広さん(48)の『チベット語になった「坊っちゃん」』(山と渓谷社)を読むと、翻訳が、言葉の置き換えを超えた異文化のぶつかり合いだと分かる。

提到“横竖”一词,多少有些揶揄翻译的意味。不就是把横写的文字替换成竖写的吗……。可是看过中村吉广先生(48岁)的《译成藏语的〈哥儿〉》(山与溪谷社)后,就会懂得翻译是超越语言转换的不同文化的碰撞。

中村さんは98年から4年間、チベット仏教を学ぶため中国青海省の民族師範学校に留学した。最後の1年は請われて日本語講師となり、チベット人教師や教え子と、漱石の『坊っちゃん』の翻訳に取り組んだ。

中村先生98年为学习西藏佛教到中国青海省民族师范学校留学,历时4年。最后一年受邀担任日语教师,与藏族教师和学生一起着手翻译夏目漱石的《哥儿》。

題名は、貴族の子息への敬称をそのまま使えた。だが冒頭の「親譲りの無鉄砲で……」で早くも思案する。名調子は結局、「父母の慎重さを欠く気質を受け継いでいたので」と律義な訳に落ち着いた。

题目仍旧使用了对贵族子女的敬称。可是,开头的“从父母那儿遗传的莽撞……”一句就费尽心思。最后,别有意味的妙语只能规规矩矩地译成“继承了父母做事欠考虑的个性”。

以降も山あり谷あり。「赤ふんどし」とは何?「茶代」って賄賂(わいろ)? 「猫の額程な町内」も、無辺の地に暮らす人には分かりづらい。「漢学教師」は「中国語の先生」とは違う、などと互いの文化、風土を行きつ戻りつ、全体の3割まで訳した。だが中村さんの帰任で中断する。

以后更是困难不断。“红色兜裆布”是什么?“茶水费”不就是贿赂吗?对于生活在宽广无垠土地上的人来说“巴掌大的城镇”也很难理解。“汉学教师”与“中文教师”不一样。诸如此类,双方的文化、风土人情等不断碰撞,翻译了三分之一。因中村先生回国而中断。

その中村さんと、日本に留学中の当時の教え子7人が来月、小説の舞台の松山市に集う。著作を読んだ愛媛大学の有志らが、完訳を支援しようと「翻訳合宿」を企画した。「道後温泉」や「坊っちゃん列車」など、ゆかりの文物を見つつ翻訳を進めてもらおうとの計らいだ。

下个月,中村先生与正在日本留学的当时的7名学生将在小说发生地松山市聚会。读过该文章的爱媛大学的有志之士们策划了“翻译合宿”活动,想帮助他们完成翻译。他们打算一边参观“道后温泉”、“哥儿列车”等与小说有关的文物古迹,一边翻译。

有志はチベット語対訳版の刊行をめざし、合宿中に公開のシンポジウムも開く。教え子たちは、『坊っちゃん』がどれほど市民に愛されているかも、肌で感じることだろう。

有志之士在合宿期间将召开公开的专题研讨会,希望发行日语和藏语的对译版。学生们也会切身感受到《哥儿》是多么受市民的喜爱吧。
 
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