日语文学作品赏析《死と愛と孤独》
たしかに私は死の叫喚と混乱のなかから、新しい人間への祈願に燃えた。薄弱なこの私が物凄い饉餓と窮乏に堪へ得たのも、一つにはこのためであつただらう。だが、戦後の狂瀾怒濤は轟々とこの身に打寄せ、今にも私を粉砕しようとする。「火の踵」「災厄の日」などで私はこのことを扱つた。
まさに私にとつて、この地上に生きてゆくことは、各瞬間が底知れぬ戦慄に満ち満ちてゐるやうだ。それから、日毎人間の心のなかで行はれる惨劇、人間の一人一人に課せられてゐるぎりぎりの苦悩――さういつたものが、今は烈しく私のなかで疼く。それらによく耐へ、それらを描いてゆくことが私にできるであらうか。
嘗て私は死と夢の念想にとらはれ幻想風な作品や幼年時代の追憶を描いてゐた。その頃私の書くものは殆ど誰からも顧みられなかつたのだが、ただ一人、その貧しい作品をまるで狂気の如く熱愛してくれた妻がゐた。その後私は妻と死別れると、やがて広島の惨劇に遭つた。うちつづく悲惨のなかで私と私の文学を支へてゐてくれたのは、あの妻の記憶であつたかもしれない。そのことも私は「忘れがたみ」として一冊は書き残したい。
そして私の文学が今後どのやうに変貌してゆくにしろ、私の自我像に題する言葉は、
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