「——今年は猪年であります」。昨日の年頭の記者会見で、安倍首相が干支(えと)に触れた。そして、またあの「美しい国」を持ち出し、それに向かってたじろがず、一直線に進んで行く覚悟と述べた。

 

“今年是猪年。”昨天举行的年初记者招待会上,安倍首相提到了生肖。而且又一次谈起了(他所主张的)那个《美丽的祖国》,同时他也表明了向着这个目标永不退缩,勇往直前的决心。

 

すぐに「猪突猛進(ちょとつもうしん)」が思い浮かぶが、猪のつく言葉には猪への厳しく皮肉な視線がある。この「猛進」は向こう見ずに突き進むことだし、「猪武者(いのししむしゃ)」は敵に向かって思慮もなく無鉄砲に突進する武者だ。なまいきでこざかしいことをいう「猪口(ちょこ)才(ざい)」もある。

 

脑海中很快浮现出了《猪突猛进(狂奔乱窜)》这个词,但是带“猪”字的词语却有对猪严厉嘲讽的意味。这里的“猛进”是指不顾方向地猛冲,而且“猪武者”是指不考虑后果鲁莽向敌人进攻的冒失武者。骄傲自大自作聪明的人则被称为“猪口才”。

 

猪突猛進 ちょとつ‐もうしん :むこう見ずに猛然と突き進むこと。

猪武者  いのしし‐むしゃ:前後の考えもなく、無鉄砲に敵に向かって突進する武者。太平記38「かたかは破りの―」

 

 これは猪にとっては不本意な扱いではないかなどと思いつつ、東京の上野公園に出かけた。猪の剥製(はくせい)や人間とのかかわりなどを展示した国立科学博物館の「亥年(いどし)のお正月。イノシシを知る」展に、なるほどと思わせる説明文があった。

 

这样的待遇对猪来说是否是非情愿的呢?怀着这样的疑问笔者去了东京的上野公园。国立科学博物馆的《亥年(猪年)的新年,了解猪》展览上展示了猪的标本以及它们和人类千丝万缕的联系。这里有一段让笔者豁然开朗的说明。

 

「実際には、イノシシは臆病(おくびょう)な生き物で、むやみやたらに突進しているわけではありません」。突進は、何かを恐れてやむなくということもあるのだろう。

 

“实际上,因为猪是怯懦的动物,所以它是不会胡乱猛冲的。”有时狂奔是因为害怕什么不得已而为之的吧。

 

近くの東京国立博物館でも、干支にちなんだ「亥と一富士二鷹三茄子」展が開かれている。望月玉泉の屏風(びょうぶ)絵には、猪が萩(はぎ)の花の中に寝そべる姿が描かれている。臥(ふ)して眠る猪をさす「臥猪(ふすい)」は、亥年を寿(ことほ)ぐ意味を込めて「富寿亥(ふすい)」とも表記するそうだ。

 

附近的东京国立博物馆,也在举办有关天干地支的《猪和好兆头》的展览。望月玉泉的屏风画上,绘有伏卧于胡枝子花丛中的猪的画面。指猪伏卧而眠的“卧猪”,似乎还有包含祝贺猪年的“福寿猪”的记载。

 

一富士二鷹三茄子:縁起の良い夢を順に並べていう語。駿河の国の諺で、一説に駿河の名物を言うという。


「臥猪」は、鎮めて安泰にする意味の「撫綏(ぶすい)」との語呂合わせとして使われたこともあるので、天下泰平を祈る吉祥画とみることもできるという。世の平穏は誰しもの願いだが、首相が「一直線」になることには異論も少なくないだろう。「猪首相」などとは言われないように願いたい。

 

因为“卧猪”还和具有和平安泰意思的“撫綏”谐音,所以也可以看作是祈求天下太平的吉祥画。虽然谁都希望世界和平,但是首相的“勇往直前”引发的异论也不少吧。希望不要被称为“猪首相”什么的。

 

撫綏 ぶ‐すい:人民をなでやすんずること

 

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