关键词:土佐の国(とさのくに) 是市(これいち) 固い竹
むかしむかし、土佐の国に是市という、とんちの上手な若者が住んでいました。  ある日の事、隣村へ出かけた是市は、突然のにわか雨に降られて、すっかりずぶ濡れになってしまいました。  服がビショビショで、このままでは風邪をひいてしまいます。 「早く着物を乾かさないと、寒くてかなわんわ」  しばらく歩くと一軒の家があり、中をのぞくと、おじいさんがいろりに火をたいていました。 「これはちょうどいい。ちょいと、火に当たらせてもらえないか」 「ああ、いいですよ」  おじいさんが快く是市を家に入れてくれたので、是市はさっそくいろりの火に当たらせてもらったのですが、火が弱いので着物はなかなか乾きません。 (もう少し火を強くしたいが、服を乾かすのに火を強くしてくれと言うのは、ちょいとずうずうしいし)  そこで是市は、おじいさんにこう言いました。、 「なあ、じいさん。おらの村では固い竹を食べるが、このあたりでも食べるのかね?」 「固い竹? タケノコではなく、固い竹が食べられるじゃと!? そりゃあ、初耳(はつみみ→はじめて聞いたこと)じゃ。ぜひとも食べ方を教えてくれ」  すると是市は、 (しめしめ、引っかかったぞ) と、ニヤリと笑うと、おじいさんに言いました。 「いいか。まずは竹を輪切りにしてナベに入れて、どんどん火をたいて竹をぐらぐらと煮込むんじゃ」 「よし。さっそく試してみよう」  おじいさんは大きな竹を切って来ると、輪切りにしていろりのナベをかけました。 「駄目駄目、もっと火をたかないと。よし、おらも手伝ってやる」  是市はいろりにまきをドンドン放り込んで、火を大きくしました。  そのおかげで着物は、たちまち乾いてしまいました。  外を見ると、雨はすっかり止んでいます。 「まだか。まだ食えんのか?」  おじいさんは早く竹が食べたくて、うずうずしています。 「ああ、もう少しだ。ここでトラのあぶらを入れれば、すぐに食えるぞ。さあ、トラのあぶらを出してくれ」  是市が言うと、おじいさんは不思議そうな顔で言いました。 「トラのあぶら? そんな物はないぞ」 「そうなのか? おらの村じゃあ、どこの家にも置いてあるんだが。困ったなあ。トラのあぶらがないと、竹は食えんからのう。残念、残念」  是市はそう言うと、さっさと帰ってしまいました。