安徒生童话
その子が始めて春の森を知ったのは、となりの子が持ってきてくれた緑の枝を見た時です。  その枝を頭の上に持っていくと、小鳥がいっぱいさえずっている森の中にいるような気がしたのです」  女の子は、天使の顔をのぞきこみました。  天使は女の子に、やさしくほほえみました。 「それから、となりの子は野の花を持ってきてくれました。  その花には根がついていたので、病気の子は植木ばちに植えて大切に世話をしました。  お陰で花はすくすくと育って、毎年咲く様になり、その子の宝物になったのです。  だって、花はその子のためだけにきれいに咲いて、いい香りをふりまいていたんですもの」  天使は、大きく羽ばたきました。 「でも、やがて病気の子は、花を見ながら死んでしまいました。  その花は忘れられて、干からびて、捨てられてしまったのです。  それが、この花なのです。  だからこの花は、どんなに立派な庭の花よりも、ずっと素敵なのですよ」  話を聞いた女の子は、天使にたずねました。 「ふーん。でも、どうしてそんなに、その花の事を知っているの?」  天使はニッコリ笑うと、答えました。 「それはね。わたしが、その病気の子どもだったのですよ」  ちょうどその時、二人は神さまの国につきました。  神さまは干からびた野の花にキスをして、声を与えてくれました。  それから神さまは、やさしく女の子を胸に抱いて言いました。 「良く来たね。これからは、君が死んだ子どもたちをここへ連れて来るのだよ」 「えっ? わたしが?」  気がつくと、神さまに抱かれた女の子の背中には、小さなまっ白い羽が生えていました。  女の子は、天使になったのです。