愛宕山(あたごやま)
茨城童子(いばらきどうじ)
しばらく門の前を行ったり来たりして鬼が出てくるのを待ってみます。 しかし、鬼らしい者は一向に出てきません。そこで、 「やはり、鬼がでるというのは嘘なのだろう。いや、それとも鬼め、この俺に臆したか」 と、帰ろうと馬にまたがったその時です。 急に雨足が強くなって、風も出てきてしまいました。そして馬がぶるぶると身震いをしました。そのとたん 何か重たい物が、後ろの鞍の上に落ちたような感じがしました。綱が振り返ると、なにやらざらざらした堅い物が顔に触るではありませんか。すると、いきなり後ろから襟首を捕まえられたのです。 「とうとう出たな!貴様が羅生門の鬼か!」 暗がりの中、鬼が少し笑ったように見えました。 「おれは愛宕山の茨城童子だ。」 鬼は、綱の襟首を持って空の上に引き上げるのです。でも綱は、あわてることなく刀を抜きます。 そして、そのままの勢いで、鬼の腕を切り落としました。唸るような声とも、風の音とも取れるような不気味な音が聞こえてきました。それから綱はどさりと羅生門の屋根に落とされました。 黒雲の方から鬼の声がします。 「腕は七日の間、預けておくぞ」 そう言うと、鬼は消えてしまいました。落ちてきたものは鬼の腕でした。腕は赤さびのした鉄のように堅くて、銀のような毛が一面に生えていたのです。