氏綱(うじつな) 出雲(いずも)左門(さもん)赤穴(あかな)
しかし氏綱という男、外見は勇ましげですが、內面は臆病な具象で、怖気づいて何もできません。逆に私を近江に引き留め、国元へ返すまいとする始末です。 いるべきではないところに永いは無用と決意して、体一つで辛うじて逃れ出で、出雲へと帰る途中に、このような病気にかかってしまい、心ならずも、あなたがたのお手を煩わせ、お世話を受けたことは、まことにこの身にあまる大恩でございます。残る生涯をかけて、必ずやご恩に報いるつもりです。」 左門は言った。「誰かの苦難を目の当たりにすると、どうしても助けたいと思うのが、人間の心とういものです。そこまで深く感謝されるほどのことではありませんよ。さらに逗留され、養生なさってください。」 その誠実な言葉にすがって、日数を重ねるうちに、赤穴は順調に回覆し、すべては平常に近づいていった。