暑気にあたって、くず湯をたべタオルで汗を拭きながら、本庄陸男さんの死について考えていた。

 先頃平林彪吾さんが死なれたときも、様々な感想にうたれたのであったが、本庄さんが「石狩川」一篇をのこして、その出版と殆ど同時に逝かれたことは、新たにこの十年の歳月というものを私たちに深く思いかえさせるものを持っている。

 元は小学校の先生であった本庄さんは、知りあった頃は作家同盟の一員で、その文学の団体がやがて解体する前後には、荒い波を身にうけていた一人であった。のち『人民文庫』の編輯に力をつくされた。「白い壁」という小説は好評を博した。『人民文庫』は昨年の初めごろ急に廃刊されたが、そのことのうちにも、歴史の響きがこもっていた。

 作家として「石狩川」をまとめて命を終られたことは或る意味で本懐であったであろう。けれども平林氏の死にしろ本庄氏の死にしろ、或る発足をした作家たちの今日における若き生涯の閉されかたとして見るとき、生きている私たちに語られて来る声は、かりにどっちを向いて耳をおさえたにしろ、その手をとおして聴えて来ずにいないものだという感じがする。
〔一九三九年七月〕

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