ものいみ
摂津(せっつ)
「腕は七日の間、預けておくぞ」 綱は、鬼のこの言葉を忘れずにいました。それで、万が一取り返されることのないよう、腕を頑丈な箱の中に入れました。また、門の外には『ものいみ』と張り出して、ぴたっと門を閉め、お経を読んで過ごしました。 六日間は何事もありませんでした。そして七日目の夕方の事です。 綱の家に誰かがやってきました。家来がのぞいてみますと、白髪のおばあさんが杖をついて立っていました。 「どなたですか」 と、聞きますと、おばあさんは、 「私は綱の叔母です。摂津の国の渡辺から、尋ねてきました」と言うではありませんか。 ところが家来は、 「あいにくでございます。主人は今晩一晩たつまでは、どなたにもお会いになりません」 そこでおばあさんは悲しげに、 「母親代わりに育てた私が遠方から尋ねてきたと言うのに会ってもくれないとは……。あぁ、残念なことだ、残念なことだ……」 と、いいながらとぼとぼと帰って行こうとします。 綱は、奥でおばあさんの言っていたことを全部聞いていました。聞いているうちに、どうしても門を開けてやらないわけにはいかないような気になりました。綱は、自分で門を開けたのです。