吾（われ）聞（き）く、東坡（とうば）が洗兒詩（こをあらふし）に、人皆養子望聰明（ひとみなこをやしなうてそうめいをのぞむ）。我被聰明誤一生（われそうめいをかうむりていつしやうをあやまる）。孩兒愚...

春の山――と、優に大きく、申出（もうしい）でるほどの事ではない。われら式のぶらぶらあるき、彼岸（ひがん）もはやくすぎた、四月上旬の田畝路（たんぼみち）は、些（ち）とのぼせるほど暖（あたたか）い...

一日光掩蔽（にっこうおんぺい） 地上清涼（ちじょうしょうりょう） 靉靆垂布（あいたいすいぶ） 如可承攬（にょかしょうらん）其雨普等（ごうぶとう） 四方倶下（しほうぐげ） 流樹無量（りゅう...

一 貸したる二階は二間にして六畳と四畳半、別に五畳余りの物置ありて、月一円の極（きわめ）なり。家主（やぬし）は下の中の間の六畳と、奥の五畳との二間に住居（すま）いて、店は八畳ばかり板の間に...

一「今のは、」 初阪（はつざか）ものの赤毛布（あかげっと）、という処（ところ）を、十月の半ば過ぎ、小春凪（こはるなぎ）で、ちと逆上（のぼ）せるほどな暖かさに、下着さえ襲（かさ）ねて重し、野...

「――鱧（はも）あみだ仏（ぶつ）、はも仏と唱うれば、鮒（ふな）らく世界に生れ、鯒（こち）へ鯒へと請（しょう）ぜられ……仏と雑魚（ざこ）して居べし。されば……干鯛（ひだい）貝らいし、真経には、蛸（...

昔男と聞く時は、今も床（ゆか）しき道中姿。その物語に題は通えど、これは東（あずま）の銭なしが、一年（ひととせ）思いたつよしして、参宮を志し、霞（かすみ）とともに立出でて、いそじあまりを三河国（...

今（いま）は然（さ）る憂慮（きづかひ）なし。大塚（おほつか）より氷川（ひかは）へ下（お）りる、たら／＼坂（ざか）は、恰（あたか）も芳野世經氏宅（よしのせいけいしたく）の門（もん）について曲（ま...

一 初冬（はつふゆ）の夜更（よふけ）である。 片山津（かたやまづ）（加賀）の温泉宿、半月館弓野屋（ゆんのや）の二階――だけれど、広い階子段（はしごだん）が途中で一段大きく蜿（うね）ってＳ形...

上 いたづら為（し）たるものは金坊（きんぼう）である。初めは稗蒔（ひえまき）の稗（ひえ）の、月代（さかやき）のやうに素直に細（こまか）く伸びた葉尖（はさき）を、フツ／＼と吹いたり、□...