今日、日本は全面的な再出発の時機に到達している。軍事的だった日本から文化の国日本へということもいわれ、日本の民主主義は、明治以来、はじめて私たちの日常生活の中に浸透すべき性質のものとしてたち現...

ここに集められている宮本顕治の諸評論は、凡そ一九二九年頃から一九三二年三月頃まで、略（ほぼ）三年間に書かれたものである。執筆された当時から今日までには僅か五年足らずの年月しか経ていないのである...

どんな作家でも、はじめて作品が雑誌なら雑誌に発表されたという意味での処女作のほかに、ほんとの処女作というのもおかしいが誰にもよまれず、永年のうちには書いた自分自身さえそのことは忘れてしまってい...

ジョン・ハーシーの「ヒロシマ」と「アダノの鐘」は、日本の読者にもひろくよまれた。そして、ハーシーの作品ににじんでいる人間性に感銘されたという読後感が一致した。「ヒロシマ」は全く記録としてかかれ...

紫苑が咲き乱れている。 小逕の方へ日傘をさしかけ人目を遮りながら、若い女が雁来紅を根気よく写生していた。十月の日光が、乾いた木の葉と秋草の香を仄かにまきちらす。土は黒くつめたい。百花園の床几。 ...

婦人文芸御発刊の由大慶に存じます。私は今ひどく心臓と脚気で動けないので七月一日には失礼いたしますが、心から発刊のおよろこびを申上げます。〔一九三四年九月〕 声明：本文内容均来自青空文库，仅供学习...

新築地の「建設の明暗」はきっと誰にとっても終りまですらりと観られた芝居であったろうと思う。 廃れてゆく南部鉄瓶工の名人肌の親方新耕堂久作が、古風な職人気質の愛着と意地とをこれまで自分の命をうちこ...

冬の日の静けさは何となく一種異った感じを人に与える。 黄色な日差しがわびしげに四辺にただようて、骨ばかりになった、木の影は、黒い線の様になって羽目にうつって居る。 風もない。木の葉が「かさ」とも...

ある夜 細長い土間のところへ入って右手を見ると、そこがもう座敷で、うしろの壁いっぱいに箪笥がはめこんである。一風変った古風な箪笥で、よく定斎屋がカッタ・カッタ環を鳴らして町を担いで歩いた、ああ...

托児所（ヤースリ）からはじまる モスク□はクレムリとモスク□河とをかこんで環状にひろがった都会だ。 内側の並木道（ブリ□ール）と外側の並木道と二かわの古い菩提樹並木が市街を...